天皇杯の財産 (2021.6.13長崎戦レビュウ)


アウェイ長崎は雨でもなかった。

が、0 – 1 の敗戦であれば、気持ちはどうしても湿りがちになる月曜日。

ただし、いっつも痛い思いをさせられる都倉 賢にやられたので、ある意味サバサバ、って感じか。
さらに、あの失点の起点となったクロスは、システムのギャップを衝かれたものなんで、まぁ、致し方なし。

これで4連敗。
となれば、さらにいろいろと騒ぎ出す、血気盛んな向きもあるだろう。

けれど、本質を見よ。
対栃木および岡山の、戦い方のテイタラクに比べれば、今回の敗戦はそれほど致命的でもなく、惜しくも地力の差を覆せなかったゲームに過ぎない。

〈天皇杯で獲たものの発展形〉
浜崎 琢磨と前 貴之のダブルボランチ
特に浜崎が下に降りて組立てる際のリーダーシップ。
それと浜崎、前が適時サイドへ出て、サイドバックと連携して侵入するやり方。サイドバックを難なくこなすふたつのタレント活用は、理に適っておりますな。
田中パウロの突破力と、河合 秀人らの連携によるサイド攻略。
村越 凱光のアグレッシブな攻守
……、これらを、58分に3枚替えすることによって、ピッチに再現、ゲーム内容を修正して魅せたのは素晴らしい。

プレビュウでは、下川 陽太が当初から左サイドバックと予想しましたが、彼の投入も左サイドとの、およびピッチ全般との連携上で効果的だった。

佐藤 和弘の不在をなんとか挽回し得る戦術の開発、としておきましょう。

ボランチのところで時間と選択肢を創り出せれば、2列目の鈴木 国友や河合がもっと攻撃へ力を割けるわけで、このゲーム鈴木は、カイオ セザールとやり合う局面が多く、かなりの疲労だったはずだが、よくやったと思います。

戸島 章の強み
高さがあって空中戦の競り合いで優位、かつ、足元も巧い。
戸島の良さを活かすには、彼が落としたボールを回収する者が必要となってくる。
このゲームでは横山 歩夢にそれを担ってもらいたかったが、突っかけるためのスペースがほしいためなのか、戸島との距離が間延びしてしまったのは恨みが残ります。
今後、克服すべき課題。

〈結局、不足しているもの〉
ざっくり言って、パスのズレによるボールロスト、がそれ。
イージーなものは論外として、攻撃の詰めの場面でパスが通らない、ってのは、このまま地上戦でいくのなら、修正してもらうしかありません。

要因が、個の技量にあるのか、連携の意思疎通にあるのか、いづれにせよ。

この点、長崎にはパスやズレがはるかに少なかった。
というのは、Vファーレン式パスは、近距離間で通すことを当然な位置取りをし、かつ、リスクを背負ったパス供給をチャレンジしないので、当然といえば当然。その分、パス数を積むサッカー。

萬年は、山雅がやろうとしている、ハイスピードで、スペースを狙っての大胆なパスによる打開を気に入っているので、今のチャレンジを続けてモノにしてもらいたいんですがね、チームとして。

あとは、DF陣への注文は、もっと相手をおびき寄せるようなパスを多用することで、最終ラインから一気に攻める局面を創り出すこと、でありましょうか。
星キョーワァンのプレイには、それが濃厚に感じられて期待大。

〈エジガル ジュニオの貢献〉
長崎の中では、FWエジガルが出色の出来でした。
前線でのボール保持、降りて来てのパス配給、アシストパス供給のタイミングと精度。
フォワードとしてほぼ完璧で、ミスがない。学ぶべきプレイです。

長崎が好調(復調?)と聞いているけれど、都倉を含めてFWに献身的プレイにおいて手を抜かせないこと、あとはむづかしいことは捨てて、自分の強みを個々が最大発揮する。
そういう方向が、今は、奏功しているんでしょうか。

ただし、剛直であるが、ある意味で無策のサッカーは、相手が狡猾を前面に打ち出してきた場合、かなり苦戦するでしょうね。

では、最後に、萬年式MVPをば。

攻守にわたって要所要所で効いていた、外山 凌、としたいんです。

では。

憧れのリネン。『Get Rhythm』

この季節には特に、ハリイ ディーン スタントン (1926~2017年) を偲ぶ。

去年の今頃もやっぱり、ハリイのことを書いていた。

『パリス テキサス』(1984年)で初めて出逢った役者さん、と思っていたら、『デリンジャー』(1973年)や『エイリアン』(1979年)に出演していたので、既に観ていて気づかなったとは、いかにも迂闊な僕であった。

また、ハリイは歌い手としても達者で、ご存命中にその才能に触れる機会を逃した、これも迂闊な僕ではあった。

ご紹介する動画では、ライ クーダ―一座の、 お馴染みの面々が、『Get Rhythm』を演っている。1987年に、カヴァーをリリース。

オリジナルは、ジョニー キャッシュが、1956年に発表した。

ここで、場末のホール支配人として登場するのが、ハリイ。
(残念ながら、歌唱には加わらない)

蒸し暑い夏の昼下がりか。

こんな風にリネン(麻)スーツを、よれっと着こなすのは、かなり上級の技。

僕なら、薄いピンクのレギュラーカラー(芯なし)のシャツに、モスグリーンのポケットチーフ、そして、足元はグレーのコンバースで仕上げたいな、とつい夢想したくなるけれど、今や、そんな格好で出かけていく処もあるでなし……。

リズムで行こう!

汚れた街で まるで地面を嘗めるような、ダーティーな仕事さ

けれど あの若い靴磨きには 落ち込んでいる風などありゃしない

磨いてもらいながら 訊いてみた   

どうやって憂鬱な気分を紛らすのかい? 

そしたら、やおら頭を上げると、にやり。

ロックンロールのリズムを 骨の髄まで叩き込むんだ、ってね。

では。

したたかに腹をくくれ (長崎戦プレビュウ)

〈初っ端から冷徹なお話〉
トップリーグで戦った2018シーズン。
長崎のチーム人件費は、8億1,400万円だったが、昨季は、14億円にもう少しと迫っている。

対し、2019年トップリーグにいた山雅のそれは、14億3,000万円。
昨季は、11億円弱へと降下した。

つまり、2020年に、山雅と長崎のチーム年俸は逆転していたわけで、その状況下で、2戦2分けは、山雅がよく持ち堪えて戦ったよ、と言える。

人件費からみた両者のチーム規模の差は、今季になってさらに開いているだろう。

かたや膨張、かたや緊縮。

まづはこの点で、腹をくくってゲームに臨まざるを得ない山雅。
サッカーとは、年俸でやるものでもないことを証明してやる覚悟で。

〈長崎がシンプルにやれる理由〉
チーム強化によって、常に外国人枠上限の4人を登録できて、結果、FWにはエジカルジュニオ、都倉 賢、2列目にウェリントン ハット、ボランチにカイオ セザールを並べる屋台骨は、図太くて屈強。

そこへ、仕上げに玉田 圭司を投入できるってのは、J2では余裕の陣容。

これだけのメンツならば、カウンター攻撃、アーリークロス、セットプレイ、どれをとってみても、個の力に任せておけば、相当なことをやり遂げられるわけ。

要は、小難しいことで仕掛けなくとも、ひたすらシンプルな攻撃を続ければいいVファーレン、ということ。

長崎直近の好調は、このあたりを意識して余計な手数をかけなくなったことに有り、とみています。

〈スキを逃がさず、スキを見せず〉
といっても、所詮はJ2に居るだけのことはあって、長崎サッカーには、スキや緩慢、ミスがけっこう散見される。

冷静に、そういった部分を衝く、ってのが今節のテーマでありましょう。

❶ボール保持はフツーに長崎に傾くけれど、それをどこまで許すのか、どこまで無理して、どこで奪取に行くのかの決め事の、意思統一。

❷割りあいと急がない、長崎ディフェンスラインの挙動に対し、空中戦を多用するにせよ、そのセカンドボールの回収を、競う相手を潰しながら、誰がどこでやるか。

腹をくくれ、とは方法論で徹底せよ、ということでして、❶❷のこだわりをベースにした上に、サイドの運用やセットプレイの工夫を表現していくしかないでしょう。

〈6/9のような綿密さで〉
その意味で、天皇杯の戦いぶりは大いに示唆に富んでいた。

サイドへの展開、サイドバックと2列目(アウトサイドハーフ)との縦関係はかなり効いてきたから、今節もこれを発動してくるのか。

また、ゲーム開始早々のコーナーキック。
全員がニアに走り出して相手ディフェンスをその方向に引っ張り出しながら、遠くでフリーに構える小手川 宏基にボールを出したやつ。
ああいう仕掛けですよ。

次節出場停止の常田採用、浜崎 琢磨のフル出場感触の確認、小手川と米原 秀亮の共存、村越 凱光の先発投入、戸島 章の活用など、過密日程を利用した、けっこう盛り沢山の成果がありました。

同じようなしたたかさを持って、このゲームも乗り切ろうではありませんか、柴田監督。

ただ、痛い材料はディフェンス陣の手薄さ。
常田(出場停止)、あるいは橋内を欠くならば、大野 佑哉らが、それこそ腹をくくって奮起するしかない。

その中、下川 陽太のセンターバック起用が濃厚なのか。

ならば、サイドバックは、左外山 凌、右表原 玄太あるいは、田中パウロで。

インサイドハーフは、佐藤 和弘と前 貴之の定番で、ということになりましょうかね。

で、ルカオの戦術的なフィットを願います。

では。

ストレスチェック を信じるか?

年に一回、職場で自答式のストレスチェックが行われる。

案内に、趣旨は、社員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐため、とあった。

貧富、貴賤におかまいなく、トップアスリートだって罹患する病なんだから、甘くみてはいけない。

ただ、前職に比べれば、現職の心理的な負荷など取るに足りないように思え、たとえ感じるにせよ、その要因はかなりわかり切ったものである僕からすると、自己採点にあまり意義を感じていない。

しかも、こういうテストは、回答者の、テストそのものへの批判的な姿勢を汲み取れないだろうからと、どうも信用できない。

せいぜい、本人に記入させることで、変調に気づかせる、ってことが最大の利点なんだろう。

……といったもろもろで、もっと苛酷な職業生活を送っている家人にこそ断然価値があるはずと、毎年、回答をお願いしてきた。

で、今年もと、頼んだけれど、なぜか拒絶される。

そこをなんとか、と頼み込むと、しぶしぶご記入のご様子。

数日後、用紙を封緘しようとしたら、あれっ、裏面が未記入。

― 表面しか回答してないんだけれど?

― 裏は、職場の上司との関係性を問うているから、あなたがやるべきでしょう、とのご託宣。

うーん。
議論しても疲れるから、仕方なく自分で記入した。

しかし、別の人間による合作回答が、マトモな評価を導くんだろうか?、果たして。

もしもですよ。

あなたのストレス表出はかなり不自然で、かつ、回答姿勢に問題有り、との結果であれば、それこそ、この方式を100%信頼してしまうんですがね。

では。

煽りの系譜 (2021.6.9天皇杯2回戦レビュウ)

社員の成績を評価する人事考課で、いちばんやっちゃダメなのが、〈ハロー効果〉
或る人物の、ひとつの良点に眼が奪われて、すべてを良く評価してしまうか、ひとつの弱点(ネガティブポイント)によってすべてを低く捉えてしまうこと。

ハローとは、西洋の聖人の頭上に描かれる、あの光の輪。
恋愛中の、あばたもえくぼ、といった心理状態を思い描くとわかりややすい。

これと同様で、勝ち負けによって、そのゲームの受け取り方(評価や印象)は、ガラリと変わってしまいやすい。

勝つために戦うわけだから、致し方ないと言えばそれまでなんだが、サッカーにミスはつきものであるがゆえに、せいぜい努力して、プレイヤーのチャレンジ面は見落とすまい、と思っています。

52分、田中パウロからの地を這うようなクロスに飛び込んだ村越 凱光の公式戦初ゴール。

その後、琉球が、赤松、上原の強力FWを順次投入して攻撃圧を強めると、最後の15分くらいは防戦にヒヤヒヤとなったものの、これを守り切って、1 – 0 の勝利。

いちばんの勝因は、FC琉球に、パスなどのミスが多かったことと、シュートに精度を欠いたこと、これは紛れもない事実。

ボール保持が生命線のサッカーで、あれだけつなぎに難あれば、いただけない。
テンポとリズム感に乏しかった。

次なる勝因は、山雅が、❶工夫と、❷前への推進力、このふたつに忠実であったこと。

❶初期布陣は、3 – 3 – 2 – 2。
サイドバックには、下川(左)、村越(右)。
ボランチは、米原がアンカー気味に入った。
ただ、米原の負担を軽減するかのように、2列目の小手川(左)と、浜崎(右)が適宜降りて、3人で守備をするような格好。

面白かったのは、小手川と浜崎が、サイドバックと縦の関係を築きながら連動し、ある時はライン際を、偽サイドバックのように駆け上がるやり方。

センターバックがスローインを入れる戦術とあいまって、偽サイドバックの動きが、サイド制圧と侵入におおいに寄与した。

❷村越、下川、田中パウロといった縦を切り裂くタレントの採用が、効果的だったことも確か。

ミスもあったものの、ディフェンス陣は前へのボール供給に常にチャレンジしていたことの評価も高い。

横山野々村の縦パス、常田のビッグスイッチを伴うロングボール、こういうのは精度を上げて続けてもらいたいな。

最後に、スタンドと一体になって気持ちを高められるプレイヤーが、再び山雅に戻って来たことを喜びたい。(特筆)

後半、(たしか)彼からのクロスを相手DFが弾いてコーナーキックを獲たシーンでは、ゴール裏を煽った田中パウロがおりましてね。

田中 隼磨、岩上 祐三、と続いてきた煽りの伝統の復活、と書いておきましょう。

なお、最後の最後に。

得点者の村越を別とすれば、萬年式MVPは、米原 秀亮。

攻守への献身が印象的で、特に、得点機を創り出した、相手ディフェンスの裏を取った田中パウロへのパス、これは魅せました!!

動画をアップして下さった方があるようなので、なんなら、You Tube でご確認ください。

では。