秘湯の 条件 ❶

秘湯、というからには、出来る限り、世評の外になければならない。

行けばいつでも、ほぼ貸し切り状態が、好ましい。

存続を願いながらも、混むのは嫌だという、身勝手さ。

これが、秘湯好きの、救いがたき正体なのだ。

僕の中の温泉熱が、いくぶん復活したようで、

浅間、穂高の代表的な日帰り温泉へと、立て続けに通ってみたが、これが、いまひとつだった。

設備的には近代的で、清潔なんだけれど、どうしてなのか?

思い当たったのが、温泉水の、次亜塩素酸ナトリウム臭。

浴場全体や、手に掬った湯からも、その香りが感ぜられる。

上水並みの消毒を、というのが保健所指導なんだろうから、致し方ないか。

でも、残念ながら、そのふたつの(有名な)温泉施設は、萬年のいう、秘湯からは除外です。

それが証拠に、今度は、美ヶ原温泉の中の、某ホテルに日帰りで行ったみたんだが、ここは、ジア臭がせず。

流石、萬年の隠し湯にふさわしいのでありました。

では。

改名ゲームには つき合わない?

先日、夫婦でドライヴィング中に。

このたび、長野銀行と、八十二銀行が、統合/合併する件について、

― 行名がね、新しくなるんだって、と家人。

僕は、吸収する側の 八十二の名称が、そのまま存続すると断じてしたので、かなり意外。

山雅の背中から〈長野〉という限定的な地域名がなくなるだけでもいいかぁ、と思っていた僕からすると、

いまだに、そう信じて疑わないのが、本心ではあります。

でも、まぁ、いいや。

ならばと、やおら車中で、新名称ゲームを始め出す。

― 信濃銀行とか、信州銀行ではね、芸がありませんよ。

この際、信濃の枕詞〈みすずかる〉から採って、みすゞ銀行、ってのはどう?

音の響きにも、万葉以来の典雅を感じるし。

でも、それだと、みすゞ飴とかぶるから、〈み寿ず〉と洒落るとか。

こんなことを語っていると、相方はもううんざりして、知らん顔をしてる。

それにもめげず、どう?、萬年の推奨案に賭けてみる?、とか煽ってみても乗ってきやしない。

なんなら、みすゞ令和銀もあり、でしょうけれど。

読者は いかに?

では。

おそるべきは 東信(その❷)

この前の水曜日。

すこし前に家人は腰を痛め、その急性期も過ぎたので、

湯治がてら、鄙びた温泉にでもと、萬年の隠し湯へお連れすることになった。

― きっと、つげ 義春の描くようなところなんでしょう?、と牽制はされたんですが、

松本市街からは、30キロ。

三才山トンネルを過ぎて、少し行ったあたり、国道を折れると、

4軒の旅館に、ひとつの共同浴場が、こじんまり集まった山あいの温泉地へと、日帰り入浴にご案内した。

ところが、お目当ての旅館は、改装のため休業中。

仕方がないので、道路の真向かいにある旅館を尋ねると、要予約、だという。

― 冬季は、湧出温度が低いから、加温に時間が必要なもので。と女将。

ならば、どこかで時間を潰してから14時目安に再訪するので、沸かしておいてください、と頼み込んで、ようやく、お湯にありつけた次第。

さて、中に踏み入ったら、宿はまるで、時間が、昭和で止まったよう。

玄関横の本棚には、きっとここ何年も手もつけていないんだろう、カビだらけの本が並び、建物や器具の破損は、そのままになって修理されていない。

築100年の建物は、勾配をつたって歩くにも薄暗く、脱衣所の洗面台も使えやしない。

しかしですよ。

4人も入れば窮屈そうな湯舟に、男女別でそれぞれ、貸し切りで浸かってみると、これが、まぁ絶品の泉質でありまして。

誰に気兼ねするでもなく、しなびた、否、鄙びた温泉宿の風情を、サッシ窓の向こうのかすんだ曇天を眺めながら味わった午後。

翌日、腰も、だいぶ楽になったような気がする、と家人。

僕に関していえば、ひさしぶりの快眠であって、

良湯は東信に在り、を実感したのでありました。

ただし。

家人は、どうやっても、あの、つげ式な情緒を、ふたたび味わうつもりもないようです。

では。

笑い飛ばす 人生。

できることなら常に、憂鬱であることを、自分に許さない心持ちでいたい。

笑いながら、人生の多くの時間を過ごしたいものだ。

かといって、TV番組などで、カメラのこっち側でスタッフがよくやる、甲高いバカ笑い、あれはいただない。

職業的な使命感で、必死に練習した結果がそれかよ、と哀れになる。

 

自分はせいぜい、すこし唇の中央が微かに上がるような、物静かな笑いをモノにできれば、とは思うけれど、

本人はそういうつもりでやっていても、

家人からは、

― また、鼻の先で(人を小馬鹿にして) 笑っている、

と 一刀両断されるのがオチなんである。

 

でも、それにもめげずに、笑える材料は探さなければならぬ。

某ご高齢のご婦人が、戦地ウクライナへ渡航した。
その地で、直接に支援をおこなう目的らしい。

すると、その国の官房長官なにがしが、

彼女については、速やかにそこから退避なさるように、と会見で述べた。

きっと、ご婦人の熱きココロと行動力を強調したいがために、わざわざおこなった広報活動であったと信じている。

しかし……。

わがプライムミニスターが、訪欧の際にも敢えて避けたウクライナに、よくぞ。

と付け加えたならば、事の切実、果敢さがよっぽど強調されたのになぁ、と残念。

同じやるでも、スピーチを効果的におこなう工夫は、大切。

では。

寒い日の ホンネ。

凍った畑土に、鍬を入れていたら、

無理な力が加わったものとみえて、刃が、クサビもろとも、柄から抜け飛んでしまった。

土の中にまぎれたクサビが、どうしても捜し出せないまま、始めたばかりの作業も終わり。

新しくおろし立ての鍬だったのに……。.

にわか農夫の悲哀、というやつです。

こんなことを言い訳にして、ソファーに寝転がっては、好きな曲を聴いている冬の一日。

最近の寒さと同じように、心に沁みる旋律。

では。