『大統領の陰謀』(1976年公開 米映画)

 

最近は。

ハリウッドも(邦画同様に)、アイデアが尽き、時代を鋭敏に反映する作品にも乏しい。

リメイクばかり、あるいは、いまさら、ゴジラでもあるまいに。

と、ロクに映画館に通うこともしない身分で、決めつけている。

時代を捉えるといったところで、

思い入れもできないような〈今〉ならば、無理してゴタクを並べたような作物も要らないかな。

さて、そう言いながらも、逃げ込める 70年代を身近に生きたことを良しとする身勝手。

さて。

作品の原題は、All the President’s Men (すべて大統領の手下)。

これは、All the King’s Men (すべて王の家臣 1949年米映画) のもじりで、

その頃の米国人には、政権欲にまつわる、告発的でドキュメンタリーな内容、との直感が働いたことだろう。

ニクソン政権の中枢が深くかかわった、民主党本部への、CIA工作員による盗聴侵入事件で始まった政治スキャンダル(ウォーターゲートスキャンダル)。

その告発の発端となったのはワシントンポスト紙の記事。

陰謀をあぶりだした記者らの仕事ぶりを描いた物語。

ですから、実話に基づくわけです。

事件の発覚が 1972年6月。

追い詰められてのニクソン辞任が、1974年8月。

そして、映画公開が、1976年4月(米国内)であったから、まことに素早い、タイムリーな話題作だった。

主演のロバート レッドフォード、ダスティン ホフマンは、実年齢40前後で、働きざかりの敏腕記者を演ずるに、もって来いの時季。

ただ、萬年視点では、むしろ!!、

ジャック ウォーデン(社会部長)、その上司役 ジェイソン ロバーズ(編集主幹)の演技に惹かれる。

ふたりともが60歳台で、この味わい。

こういうのを、渋い、という。(きょう日流行らないか)

制作元ワーナーブラザースが、告発記事の始まりについてやりあう、ポスト社内ミーテイングの場面を、

You Tube上公開しているので、それをいただく。

(たった10分間です、どうか、おつきあいを)

記者たちから記事原稿を渡され、足をやおらデスクに置くと、ズラッと走り読んで添削するのが、ジェイソン ロバーズ。

その原稿を主幹に手渡すのが、ジャック ウォーデン。

ロバーズが、スーツ(上着)をまといながら自室から出てくるところなんかは、芸が細かくて、

編集主幹のダンディズムを、さらりと描く。

これ、シャツ姿の部下と一線を画したい、というボス流儀の表現でもあって、

この些細な部分だけみても、優れたシナリオだ。

全体的に、役者に抑制した演技を求めているのがわかって、好感。

日本の場合、こういうテーマ、

やたら声を張り上げ、感情過剰な演技になりがちで、ウンザリです。

では。