平気でうそをつく男。

借りていた本を返そうと、図書館へ出かけた。

受付で本を差し出した時、うっかりしてポストイットを貼り付けたままなのに気づく。

― こういうことは、お止め下さい。

付箋によって書物が傷むかのように、司書の女性が、それを剥ぎとった。

― これは、申し訳ない、二度としません。

ポストイットを使ってやりくりする知的作業のほうが、たかが本そのものよりはずっと貴重だろうに、と内心思いながら、心にもない事を、平気で口にする。

つまり、これからもやめる気は毛頭ない。

歳を重ねると、こういうことを流せるようになる。

ジョージ オーウェル(1903~1950年、英国作家) によれば、

― 自由になんらかの意味づけをするならば、それは、他人が聞きたくないもないことを、彼に告げる権利、といえるだろう。

とすれば、あの司書の方は、その自由を行使したのであって、僕は、

その自由を尊重するフリをした、というに過ぎないわけか。

では。