逃げたい心、

は、阪口 安吾による短編(1935年発表) で、松之山温泉(十日町市)がその舞台。
途中には、長野市が描かれている。
五十路に近い男の逃げたい心、を扱っているのだから当たり前なんだろうが、なんとも暗い気分を持つ作品だ。

紀伊国屋書店。
といえば、たいていの人は知っている日本有数の書店。
他に出版もやっていて、劇場(紀伊国屋ホール)も持っている。

この紀伊国屋が、書店として創業したのが、94年前の、ちょうどきのう1月22日だった。

もともと薪炭業を営んでいた商家の跡取り息子が、在った。

彼、『丸善』(書店、日本橋)に魅了されて、家業を本屋に求めようと決意したのだ。

当時、『丸善』は単なる本屋以上の、なにか文化的イメージの本拠みたいな存在だったんでしょう。
梶井 基次郎の短編『檸檬』(1925年発表)には、丸善河原町店(京都)の本の上に、檸檬をひとつ、あたかも爆弾と夢想して置き去りにする、という描写がある。

さて、一念発起したこの倅が、田辺 茂一(1905~1981年)。
当時は、22歳の青年だ。

それから50数年後、田辺は、ラジオ番組に出演し、パーソナリティーの小室 等(歌手)にこう問われる。

― 炭家の片隅ではじめた本屋が日本一の本屋になるような、そんな時代はもう来ないんでしょうね?

で、この時の田辺の答えが、ふるっている。

―そりゃあ、おめぇ、何でも時代のせいにしてりゃあ、それゃあ楽だわな。

こういう江戸弁というのは、軽妙で、かつ、こちらに響いてきますね。

……〈逃げたい心〉から、なんとなく連想されたお話ではありました。

ところで、紀伊国屋ビル(新宿3丁目)の地階、〈モンスナック〉のスープカレー。
ここのは、スープとライスの分量のバランスが絶妙で、しかも美味い。

新宿あたりに出かけた際には立ち寄ることしているけれど、近年はトンとご無沙汰であります。

では。