素直に聴く A Song for You

 

ずいぶんと昔のこと、伯父の家を訪ねたことがある

ひとつ違いの従弟の部屋に入ると、彼が アルバムをひとつ聴かせてくれた。

カーペンターズの『Now & Then』(1973年発表) だった。

従弟は盛んに、アルバムの良さを絶賛する。
(アルバムチャートで、全米 2位、日本 1位を記録したヒットである)

口には出さなかったけれど、『Yesterday Once More』など、歌詞もメロディーもありきたりの、凡庸な曲ではないか、と内心思っていたのが萬年。

今になって、アルバムの構成をみると、この曲は導入歌に過ぎず、
その後に、オールディーズの定番が続く。
ゆえに、凡庸で一向にかまわないわけだな。

(このアルバムで唯一注目するのは、トム スコット (1948~、サクソフォーン奏者)が、リコーダーで参加していること)

そんなエピソードもあってか、カーペンターズはそれほど熱心に聴きもしなかったのだけれど、レオン ラッセルの『A Song For You』のカヴァーに触れてみると、いやぁ、ちっとも凡庸なデュオではない。

こころにしみじみと迫ってくる率直な歌唱は、一世を風靡して当たり前だったと思わせる。

君のために僕は歌う

いままでいろんな処へと出かけていった
たくさん曲を歌い、たまには まずい韻を踏んで詞を書いた

10,000人もが観ているステージで  愛というやつを演じたけれど
今は  君と僕のふたりだけ

で  この曲を君のために歌う……

その日の午後。
従弟と僕のふたりは、2階の部屋の窓から、すぐ眼下に日立市のメインストリートを行きかう人々を眺めて時を過していた。

あの日をもう一度、ほどでもない記憶です。

では。

〈コメント〉
☞つー さん より (8/23 8:51)
女々しくも心地よい昔日。
だいぶ以前に触れたことがあるのだが、いろいろな事があって実家を出、独り暮らしを始めた彼女。
笹塚の6畳一間のアパートには彼女が小学生の頃から使っていた机、小さなタンス、テーブル、食器棚、そしてその部屋には不釣り合いな大きな家具調のステレオが。
ステレオの向かいの窓辺に二人寄りかかり「幻想交響曲」の第四楽章を聞いた。
夏の終わりを感じさせる涼風が、緩やかに吹き込む窓辺で、もっと雰囲気の良い曲を聴けば良いのに、やたら迫力ある演奏に包まれ二人何を思っていたのか。
残念ながら、二人一緒の未来はやって来なかったが、その音色はいつでも脳裏に呼び起こすことが出来る。
では、また。

☞萬年より (8/23 20:45)
ベルリオーズですか……。
ロマン主義も良いものです。
齢をとったら、シベリウスあたりにいってしまう萬年です。