

― 爭いを好む女と一緒に家におるよりは、屋根のすみにおるほうがよい
(旧約聖書 箴言21章8節)
イスラエル王ソロモンが、そんな婦女子に囲まれていたのか、
または、他人の家庭をみて、そう思ったのかは知らないけれど、
『風前の灯』(1957年、松竹)を観ていて、この言葉が思い出された。
映画は、洒落た脚本と演出(木下恵介)、それと、達者な役者によるコメディで、
この作品に先立つこと、ちょうど2か月前に公開された、
『喜びも悲しみも幾年月』(同監督)と同じく、佐田 啓二と高峰 秀子が、夫婦を演じている。
が、ふたつの作品における夫婦像の〈落差〉とその演技に、終始、抱腹絶倒だ。
……風前の灯については、機会あれば、また書くことにして、
〈These Foolish Things〉(たわいないことに(あなたを想う)) は、ジャズのスタンダードソング。1936年発表。
……口紅のついた煙草、
素敵な場所への航空券、
隣のアパートから聞こえるピアノ、
水仙の花と 空を横切る電線、
小さなテーブルにある蝋燭の灯火、
通過する真夜中の電車、
放り投げたストッキングの下のパーティー券、
グレタ ガルボの微笑みとバラの香り、
そんな他愛ないことのすべてが、あなたを想い出させる。
それは、僕には喜びであり、また、痛みでもあって……。
ひとをおもうこころに、平穏のみを願うのは、虫のいい話なのかも知れない。
では。

