数日前。
親友のK君から、年末の挨拶が送られてきた。
僕は、年賀状をやめてしまって 3年ほど経つから、
彼は、気をつかってショートメールにしたのだろう。
……今年も一年、お世話になりました。(中略) 実は、今日のN〇K BSで黒澤 明の「椿 三十郎」を観ました。面白かったです! 原作は山本 周五郎。あぁ、ヒューマニズム! でも、いいですねぇ、素朴なヒューマニズム。
齢ですかねぇ、こんな世の中、そんな小さなことにたまらなく惹かれます……。
……こちらこそ、果たしてないお約束もあったりで、いろいろお世話になりました。
椿 三十郎ですか、みづから押し入れに入る小林 桂樹はいい味ですね。
ラストの決闘シーンで、三船が、左手で小刀を抜いて(仲代 達也を)斬り上げる殺陣は見事でした。ご家族ともどもご自愛を……と返しておいた。
年末年始は、少したまった不燃ゴミを処分するのと、
子どもの帰省と会食の準備くらいで済まし、特段のことはしない。
ありがたいことに、公私ともに忘新年会は、一切なし。
勤務も通常ローテーションどおりだから、
食事も睡眠もフツーに摂って、つまらんTV番組は、駅伝含め、もちろん避ける。
いまさら、あたらしい決心も要しない……、そういふのがベスト。
ただ、ひとつだけ。
K君へのアンサーとして、ヒューマニズム映画をひとつ。
『真昼の決闘』(原題 High Noon、1952年米国)が想い出されたのだ。
……結婚式の日、円満退職して街を出ようとした保安官夫妻に、降って湧いた災難。
ウィル ケイン(ゲーリークーパー演ずる保安官の名前)に復讐を誓ったギャングが、この街に正午(ハイヌーン)に着いて、ケインに報復をおこなう、という。
保安官は、町民に、加勢して抗戦するように説得にまわるが、誰ひとりとしてそれに応ぜず(たったひとりの少年をのぞいては)、
新妻は、クエーカー教徒の信条ゆえに武器を執らない……。
初老(50歳を過ぎたあたり、クーパーの実年齢も)のケインはひとり、 4人のならず者に立ち向かっていく……。
話し出すとキリがありませんが、この作品は、以降の、アメリカンヒーローの典型を創った。
その条件とは、ふたつ。
ひとつ、意志をふるって孤立無念の戦いに挑む。
ふたつめ、〈陰り〉(=弱点)を持った個性である。
たとえば。
真昼の決闘から、ちょうど 30年して世に出た、
『評決』(1982年 米国)は、その典型的ヒーローを、法廷で魅せた物語。
今は落ちぶれて、アルコール依存症の弁護士を演ずるポール ニューマンは、
この時、57歳だった。
すくなくとも米国映画のヒーローは、この先も、この美点を踏襲するに違いない。
さて、お楽しみの動画は、真昼の決闘のエンディング。
クーパーが保安官バッジを棄てるところは、20年後に、クリント イーストウッドが、『ダーティハリー』で、もっと派手にやって魅せたなぁ。
では。