映画『ベルリン 天使の詩』(原題、望みの翼、1987年 仏/西独合作) 。
ヴィム ヴェンダース(1945~ 監督)が紡ぎ出した、ファンタジー。
当時、ベルリンの壁は、いまだ存在していて、
主人公、天使ダミエルの使命は、かつても今も、ベルリンを守護することであるけれど、
約半世紀前、この都市に壊滅的な破壊と殺戮を招いた責めと苦渋の中で生きていた。
……、作品を観るにあたって、ここらへんをわからないと、永遠の生命を棄てて、人間界の一員になりたいと欲する、ダミエルの希望に共感できないだろう。
作中の名セリフのひとつ、
― 時が癒す ですって? でも、時が病んでいたら、どうするの?
がひたひたと迫ってきた、あの時代……。
(健全な時代などは、ありませんかね?)
もちろん、ベルリンの試練や状況は、映画のなかで存分に明示、暗示されるから、
僕らはムダな解説などには触れずとも、ただ暗闇の中に身を置きさえすれば良い。
お話の中、元天使でいまは役者の、ピーター フォーク(1927~2011)が、本人役でご出演。
ダミエル(ブルーノ ガンツ 1941~2019)と語り合うシーンが、魅せどころのひとつ。
語り合う、といっても、(作品の設定では)人間からはその姿が見えないダミアンに向かって、
― 見えないが、君がそこにいるのはわかるよ。
と現人間ピーター フォークが、一方的に話し始める。
映画史に残したい場面です。
コート姿、片手に煙草、風景をスケッチする、といったいでたちは、
ヴェンダースによる、映画ファンへの、洒落たプレゼントに違いない。
では。