原題は『The Accidental Tourist』。
1988年の米国映画。
邦題は『偶然の旅行者』で、見事なほど工夫がないんです、これ。
この作品が、この国であまり注目されない理由のひとつでなないか、と勘繰りたくもなるんですね。
で、勝手にタイトルのように訳出して見た次第。
旅行ガイドブックのライター役で主演した、ウイリアム ハートが、3月13日に亡くなった。(1950~2022年)
誕生日の7日前、との訃報。
享年 71歳だった。
凶悪犯に息子を殺害された痛手から立ち直れないでいる主人公、という設定がまづあって、
その日常に、ふとして入り込んで来た、かなり奇妙な行動をとる子持ちの独身女性(ジーナ デイビスが演ずる)に、戸惑いながら惹かれて行く進行。
― となれば、ハートの持つ〈受け〉の演技の巧さが、存分に発揮されること、これはもう観ていて、一番のお楽しみなんです。
冒頭のシーン。
たしか、ベッドに置かれた空の旅行鞄に、パサッと、畳んだボタンダウンシャツが抛られる。
で、それが、ブルックス ブラザーズ。
最初に、主人公の趣味や素養をあらかたを示してしまおう、という脚本だ。
こういうところが、アメリカ映画らしい。
乗ってるクルマや服装でさりげなく、主人公の人となりを描写できるというのは、社会の成熟というものでしょうか?
1980代がだんだんと押し迫っていく憂鬱、そんな感じの映画を想い出しながら、一瞬の安逸に沈みたいものです。
ご冥福をお祈りしながら。
では。