坂口 安吾(1906~1955年)に、『風博士』(1931年発表) という短編がある。
6,000字、つまり、400字詰め原稿用紙で、15枚程度の小品。
この作家の名を、世(といっても文壇の世界)に知らしめた作品、と解説されている。
あっけらかんと人を喰った道化的な作風は、今でも新鮮で、読ませる。
ただし、これを書いている作者が、物語の語り口のようなサーヴィス精神に富んでいた、とは考えないようがいいだろう。
堀 辰雄(1904~1953年)の諸作品は、さて、いまでも読まれているのだろうか?
まぁ、その作物をほとんど読んだことのない僕が言えることでもありませんが。
代表作に、『風立ちぬ』(1938年刊行)がある。
その題名は、ポール ヴァレリー(1871~1945年)の詩、『海辺の墓地』(1920年)の一節から、採られたもの。
風 吹き起こる…… 生きねばならぬ。 (鈴木信太郎 訳 筑摩書房版)
この墓地には、現在ヴァレリー自身も葬られている。
当時、先祖たちが眠る墓石群の中、太陽光の真下で、地中海を見下ろしたヴァレリー氏の、白昼夢にまどろむ姿が偲ばれます。
で、風に関する断片の寄せ集めは、この曲で終わるんであります。
では。