同じ時代を生きたのに (ひばり論)

美空 ひばりが亡くなったのは、1989(平成元)年6月24日。

享年 52歳。

当時、萬年は、早朝のパン屋でアルバイトをしていて、BLTサンドイッチ用のトマトをひたすらスライスするのが、仕事のひとつだった。

その翌朝だったろうか、一緒に働くご婦人(おそらく60歳超)が、目をうるませ、

―ひばりが逝っちゃった、悲しい……..、
と語るのを、トマトを刻んでいる背中に聞く。

あぁ、美空 ひばりと共に生きてきた、といえる世代が在るんだ。

当方は、同時代に生きた感が皆無。
なので涙ひとつこぼれない、ってのに……。

逝去の痛みを、はたで見ていて新鮮に感じるほどに、美空 ひばりの偉大さが、ちっともわからなかった萬年であったし、これからもそうだろうな、と思う。

10歳そこそこでデビュウした頃のひばりの歌唱を聴くと、とにかくやたらと上手い。

早熟な子の才に出逢った時の、背筋がゾーっ、とする感じが襲ってくる。

年齢を加えるにつれて、果たして、ひばりの歌唱力が深まっていったか?

いや、決してそうは思わない男が、ここに居る。

むしろ、人生の早い時期に完成してしまったそのままでいてくれたなら。

などとは、身勝手の注文なのは、わかっちゃいるんだが……。

では。