EF64形(電気機関車)に牽引されて、寝台特急カシオペアが通過していく。
そんな幻想的な光景に出逢えた、霧の明け方。
その数日前に、お人を介して、旧知の姉妹からお便りをいただいた。
松本に生まれ育ち、すでに30数年前にはこの地を離れ、今は在京の方々だけれど、このたび、いよいよ松本に残してあった土地と建物を処分します、と書いてあった。
戦争で未亡人となった母親が、57年前に手に入れたもの、とのこと。
城山の登り口にあって、夜景の美しい場所にそれは在る。
萬年家族は、しばらくの間ここをお借りしていた恩義があるのだ。
処分の前に整理したのであろう、母上の形見として書物が一冊添えられてあった。
母の墓所は松本に残してあるので、墓参のため帰松することもあるでしょう、とあったけれど、きっと、人生のうちでお会いすることは、最早あるまいなぁ、と何故かひとり決めしている萬年ではある。
あのカシオペアの、人知れず静かに走り去る姿を想いながら……。
では。