白い家 やたらと悩む 好い男

―映画の最後で、ハンフリー ボガードが、ポケットの拳銃をそのままぶっ放して台無しにした、あのトレンチコートね。
あれ、アキュアスキュータムのはずです、 バーバリーじゃなくて。

すると、ルノワール氏すかさず、
―バーバリーといったら、やはりステンカラ―でしょう……。

長年服飾の業界でやってきた御方らしいご意見だな、と思った。

その映画とは、『カサブランカ』(1942年 米)。
※カサブランカとは白い家という意味。

その前年に第二次世界大戦に参戦した米国による製作だけあって、枢軸国側のドイツとドイツ軍人は一貫して悪役として描かれている。

要は、ロマンス映画の体裁を採りながら、本質は反ドイツを煽るプロパガンダ映画だったのだが、時が経つにつれ、時代の虚飾が剥げ落ちて、ラブの部分が残ったような塩梅。

でも、自分を捨てた女性に久しぶりに逢ってしまい、動揺し葛藤する主人公(ボガード)の弱さに比べれば、元カノ(イングリット バーグマン) のやけに年増じみた余裕、あれは一体何なんだ。

(当時ボガードは、当時、41か2歳。かなり老けてみえます)

要は、愛されている女の自信なのか、ここらの心理描写がガサツで、妙に鼻もちならない萬年ではあります。

だから、恋の成就を諦める主人公による決意のラストにも、あまりココロ揺さぶられない。

―もともとプロパガンダ映画は、そんなところには照準を合わせていないわけだ。

こういう情宣的な語り口による進行は、後年スピルバーグがインディ ジョーンズ物に多用していて、さすが米国映画の伝統、って思います。

で、最後に、主題歌級扱いの、As Time Goes By(1931発表) など採りあげてやるもんか、というわけで、『Sea Of Love』(1959年発表) を聴いてしまおう。

同名タイトルの映画(1989年 アル パチーノ主演) については、別の機会にでも語りましょう。

では。

〈コメント〉
☞つー さんより (9/23 10:19)
ビビアン リーに会いたい。
映画「カサブランカ」ピアノ曲を聞きながら、ちびりちびりブランデーを煽り「よりによって、なんで俺の酒場に」なんて嘆くシーンに、なんと女々しい男だろうと思ったものだが、ハットを被り襟を経てたトレンチコート姿は似合っていた。

日本でもトレンチコートが流行った時代があったが体格か顔つきの問題か、格好良く着こなせる人は少なかった。
ベルトを後ろで縛り尻尾のように垂らし、前をだらしなく開けて着ている人が結構いて見苦しいものだった。
映画「サムライ」のアランドロン、「ティファニーで朝食を」のオードリーヘップバーン「シェルブールの雨傘」のカトリーヌドヌーブなんかのトレンチ姿、とにかく格好良かった。が、映画「哀愁」のなかでロバートテーラーが軍服の上にトレンチコートを着ている姿が、まさに格好良さナンバーワンだ。
では、また。
☞萬年より  (9/23 11:42)
Tomorrow is another day!
世界に星の数ほどある酒場のなかで~、か。

愚痴りかたも、格好いいや。
これで、トレンチコート着こなし俳優のベスト5の出来上がり。
最後は来ている本人次第、というとそれまでですけれどね。

こうなったら、次回はダッフルコートなんかどうでしょう?
その中には、かならずトレヴァー ハワード(第三の男、英国軍将校役)を入れないと話が始まりません。
いかがでしょうか?
☞つー さん より(9/23 12:36)
学生はより学生らしく、軍人はより軍人らしく見せるダッフルコート、憧れました。第三の男では、オーソンウェルズ、アリタバリも味のあるコートを着てました。
是非取り上げて下さい。
では、また。